登山者等の位置検知システム」について研究されている富山県立大学の岡田教授の講演



「登山者等の位置検知システム」について研究されている富山県立大学の岡田教授の講演。

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■ 携帯電話
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昨今 多発する山岳遭難のなかで 遭難者(要救助者)から 「SOS通報」する通信手段で一番多く使われているのは 携帯電話。

いまどきの 携帯電話にはGPS機能も付属しているのだが、 携帯電話の通話に使われている 電波の周波数帯(800MHz--2.1GHz)は 山岳地帯では伝搬性能が悪く 遠くまで つたわりにくい周波数なので 山岳地帯では携帯電話での通話は「圏外」表示が多くなる。

山岳地帯で 遭難者が携帯電話を通じてSOS発信しようとしても 限られた場所でしか 通話できない。

たとえ 運良く つながった携帯電話も 途切れ途切れで 不安定になりやすく、要救助者(遭難者)の携帯電話からの「 SOS 」通話も不安定で位置も特定できず せっかくのGPS機能も活かせないまま、実際の 遭難者の捜索には レスキュー関係者に 多大の労力と困難をしいることに つながってきている。

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■ ヤマタン
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剱岳など 険しい山岳地帯が ひかえている富山県では 以前から 山岳遭難対策から「ヤマタン」という小電力電波を利用した探知システムを 雪山登山者などに貸与するなどして山岳遭難にそなえている。
ただし、ヤマタンは 50MHz帯 の微弱電波で、遭難者からの送信を探知しても 送信位置の正確な特定が難しくて、なかなか位置情報として絞り込めない。

このため  2012-2013年の小窓尾根遭難者捜索のさいも、電波はとらえても遭難者の絞り込んだ探索はできないヤマタンの限界に直面した。

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■ 電波で 登山者位置の把握
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道迷い遭難防止や スピーディーな救助 のうえからも 正確な位置情報を いちはやく 遭難登山者や 救助する側に知らせ 遭難者の探索をもっと的確に ピンポイントで絞り込むビーコンの導入が 望まれている。

近年、GPS機器がコインの大きさ ぐらいに超小型化、高精度化して ピンポイント位置情報 自体は いとも簡単にえられるようになってきた。

が、問題は 携帯では「圏外」となる山岳地帯でも 安定的に 双方向可能な通信手段をどう確保するか。そのための通信機器と、その周波数帯は?

圏外の山岳地帯でも 何キロも 安定的に 伝搬する 山岳地帯に向いた周波数帯の確保が システムのポイントになるが、国内の各種制約など、いろいろ難しい課題が多くて、通信手段として理想的な位置通報の通信端末が、なかなか登場しにくかった。

457kHzの雪崩ビーコンは普及しているが 微弱電波なので 近くまで行かないと反応しないので やはり 雪崩対策専用だ。


黄色が今回紹介する「登山者等の位置検知システム」

こうしたなかで 富山県立大学の岡田教授は 登山者の位置検知システムの研究開発を 長年にわたり 精力的に行ってきた。 

基礎実験をつみかさねて、研究開発して、試作機をつくり、実際に、山岳地などで、試験をくりかえして、改良に、改良を つみかさねてこられた。

そして 昨年2014年12月4日には 石川県医王山周辺で 公開実証実験を行い、完成された探知機器の性能と実力を 公開で実証された。

今回のシステムについて 富山県立大学の岡田教授が 2015年2月 わざわざ四国の地に足を運んでいただいて ご講演された。





以下 富山県立大学の岡田教授 講演での 私的メモ

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(1) 「 150MHz 」の周波数帯を使う
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 山岳地帯での伝搬性能 良好の 周波数帯として 150MHzの周波数帯を採用。

北陸などの積雪の多いところでも 天候などの 影響を受けにくく かりに3m位 雪中に埋没しても しっかり 探査できる周波数帯として、いろいろ試してみて 150MHzが一番 よかった。

150MHzは 多少山などに 遮蔽されても 障害物を 回折して伝わる 性能があり 山岳地では 伝搬性能がとても良い。


端末の出力にもよるが
 
(高出力にすれば 伝搬距離のびるが、電池消耗が激しくなり、大容量の電池が必要になり、携帯性落ちる)


岡田様の 基礎研究によれば
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コンクリート壁50cm 透過
水没10mでも検知が可能
降灰の厚さが50cm
積雪下10m検知可能
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など 150MHzは とてもいい伝搬性をもっている。

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(2) 登山者端末は120グラム
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GPSを内蔵した 120グラムの端末は 個別IDを持っており 救助要請のSOSボタンを押せば 直ちに現在位置を個別IDとともに捜索端末や基地局に送信。

捜索側が受信完了したとの確認を 遭難者側にフィードバックして 送信完了し 、「確かに捜索側が受信した」との確認の意味で 遭難した登山者端末に「捜索側受信完了済の赤ランプ」(状態通知LED)を点灯。

「捜索側受信完了済の赤ランプ」(状態通知LED) があれば いわば安心ランプとなって、 遭難者がイライラと 送信が届いたどうかが 不安で 再度 再再度 再三再四 繰り返し ボタンを押す必要はなくなる。

これは 遭難者に 安心感を与える すぐれものの システムだ。


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(3) 捜索側端末
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捜索側端末も携帯便利なように 登山者端末並みのコンパクトさで タブレット接続で位置表示も可能。
捜索側端末では、遭難者の端末を遠隔リモート操作もできる。


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(4) 中継リレー可能
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山岳地帯では 中継リレー可能で たとえば山小屋などで次々に 遠方まで届くシステムだ。


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(5) ヘリコプターから探索
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ヘリコプターは 基本6km以上だが 富山空港の 上空に あがっただけで 直ちに へりは 12Km位先までの遭難者からの電波を 受信可能となるほどの良好な電波伝搬、受信性能だ。

遭難者発信の電波は ヘリが雲中にいても 受信可能。

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(6) 山中では つねにスタンバイモードで 電池消費は抑制
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運用の 基本は山中では つねにスタンバイモードにしておくことで、電力消費は抑えられ、電池の継続時間は長く、電波占有は効率的になり 混信も避けられる。

そして いざというときに遭難者が 手動で SOSをいれる 手動モード。

もしくは 捜索側から 遠隔操作で遭難者の電源を本格的にいれて、GPS位置情報、端末ID など送信させることができる リモートモード。

さらに GPS取得後 要救助者が 谷底 クレバスなどに転落した場合にたいしても、GPS衛星電波取得できない想定で 登山者の端末自体で電波発信させて 位置を探索できるモードもある。

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(7) 登山者が意識不明の場合 リモートで操作
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遭難しても 登山者に意識があって 自らの意思で手動操作して 要救助の要請を出す場合は問題ない。

が、もし 登山者が不意の墜落や転落 雪崩にまきこまれたり などで 自ら 手動操作もできない状態に陥った時。

低体温症や外傷などで、意識がなくなったりして 端末を手動では操作できない事態になってた場合。

その場合でも対処できるよう リモートで操作できる探索モードもそなえている。

捜索側端末から 遭難者端末を遠隔操作させて GPSデータなどを取得 以降 探索される側のモードにして 探索をしやすくする。

要救助者の意識が「ある」「なし」 とは関係なく 捜索側端末から 遭難者端末を遠隔操作することが可能である。
これが 従来 ややもすれば 長期間 大変な労力を要していた 行方不明者などの捜索が容易になり 早期発見・救出につながるだろう。



北陸総合通信局「登山者等の位置検知システム」の実証試験を公開
平成26年12月4日(木)医王山スポーツセンター
http://www.soumu.go.jp/soutsu/hokuriku/press/2014/pre141125.html


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(8) 電池消耗を抑える
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 法令上 特定小電力無線局として1Wの出力まで許容されているであるが、

高出力にし、電池の持続性から電池容量を大きくして 電池の持ちをよくしようとすれば 嵩張って 重くなり、 携帯性が落ちる。

出力を上げれば 伝搬距離は延びるが 電池消耗が激しくなるが、 出力を落とせば、省電池などメリットはあるが 伝搬距離は落ちる。

出力、電池消耗、伝搬距離、電池容量、電池持続時間、携帯性の バランス上 ちょうどよい 最適な選択があって、むやみやたらに 高出力 大容量重量電池ばかりが 良いわけではない。

電池消耗を抑え、軽快な携帯性をもって 捜索に必要な 探索範囲に届けばいいのである。


実証実験で使われた端末は バランスよくまとめられた 良好なスペックだ。


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(9) 電波法令上の課題
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機器自体の完成度は高いのだが、最後に実用化にむけてクリアーしなければいけない最終の課題として、電波帯域の電波法令上の 課題が残っている。(総務省管轄の法令)

利用しようとする150MHz周波数帯は、すでに動物探査システムで使われている帯域。

規制緩和で 2012年省令改正で 動物検知通報システム特定小電力無線局は 出力が 10mWから1Wまでアップして 使いやすくなったが、動物探査システムは、雪崩ビーコンのように常時発信モードでつかわれていて、電波が常に混雑しやすい。

しかも 常時発信だけに 電池消耗が激しく、動物につける首輪は大きく、重い。

さらに探知するアンテナは扱いにくく、探索効率がとても悪い。

動物探査システムの効率化も、この際、早急に、はからなくてはいけない。

動物探査システムも 連続的に送信する ビーコン方式を GPS測位と送信制御を組み合わせた 軽量で 探索に効率的な機器にして、小さな首輪で、より効率的な情報が たくさんえられるシステムにすれば、限られた電波を有効利用できる。


 注 [必要なときだけ 送信するように すれば 10倍の電池持続になる] 


貴重な 150MHzの帯域の電波 の有効利用には まずチャンネルの帯域をナロー化し 必要なときだけ 発信するモードにしていかなくては、容量的に とても足りないのだ。


 注 [ナロー化 すれば 50倍の容量になる] 

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(10) ナロー化 時間的に整理
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電波の帯域をナロー化して 使えるチャンネル数を増やし 時間的に電波使用時間を整理して 必要なときだけ瞬時に電波を発信するようにして 限られた周波数帯の有効利用を図らなくては 登山者捜索と 動物探査ともに うまく 運用できない。



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(11) 山小屋に探索や中継基地
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 さらに有効な捜索が行えるように 探知できる基地として 山小屋などの救助ネットワークをしっかり整えておくことが重要だ。

捜索側の 地上設備を整えることも大事であるが、さいわい 富山県側の山小屋はもちろん 、長野県側の山小屋のみなさんも 登山者等の位置検知システムの導入に きわめて協力的である。


山小屋に基地を設置すれば 劔岳 周辺 すべてカバーできる


見守り ネットワークが 構築されていることが大切だ。

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(12) 規格統一 端末の普及 
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457kHzの雪崩ビーコンが規格統一され普及したように、登山者等の位置検知システムの普及にも 、「規格統一」が絶対必要だ。

商品化する メーカーが 一定の規格を統一して 捜索側にも みな共通できるようにして 登山者端末の普及をはからなくてはならない。

規格統一すれば 普及に弾みがつく。

そのうえに、さらに 製品化される各メーカー端末の価格設定は 低廉な普及しやすい価格帯 にしてもらいたいものだ。




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(13) 登山者の意識
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普及するには 登山者自身が どんな場合でも 自助努力の姿勢をしっかり持ってもらった上で、

すべて人に頼らず セルフレスキューをしっかりできるようになって

安易に 人に頼らない 自助の 意識をさらに高めていく必要がある。

そして やはり レスキューを要請するばあい があるかもしれないと

登山者位置検知システムを 携行し 万が一に備える。




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(14) 誤操作
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アメリカのコスパスサーサット衛星利用の SPOTなども誤操作によるSOSが かなり多いらしい。

人間のうっかりミスによる 誤操作。

オオカミ少年のようにならないよう 誤操作対策も必要で、万が一の 誤操作にたいしての 「要救助の取消」をどうするかなどなど。

まだ課題はあるが 救助ボタンに 頑丈なカバーをつけ 簡単に押せないようにし 一度押しても さらに もう一段の再確認のボタン押しも必要になるかも?

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(15) あとは 電波法令上など 残された諸問題などが クリアーできれば
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いずれにしても 実証実験で証明された通り システム自体 おおむね 完成。

あとは 最後に電波法令上など 諸問題などが クリアーできれば もう実用化 商品化段階にきている段階だ。

早急に 「登山者等の位置検知システム」の運用が開始されて、遭難者の救助が、より迅速に より的確な捜索が行われ、遭難者の救命に大いに役に立つことを期待したい。


以上 (1)~(15) が 講演メモ


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講演を聞いて ここで 改めて 基本的なことを 思いおこす。

リスクホメオスタシス
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「雪山での行動に関するリスクホメオスタシスの例として考えられるのは例えば、エアバッグを装着することにより、より高リスクな単独行動を行うようになる。あるいは、ヘルメットを被るようになって滑走速度が以前より速くなる。雪崩教育を受け雪崩に対する対策に自信が生じて、雪崩斜面にどんどん入っていくようになる、などが考えられる。」

『山岳雪崩大全』雪氷災害調査チーム編 2015 山と溪谷社
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あへて 悪い たとえで恐縮だが 酒酔い止めの特効薬や胃薬を服用しながら 大酒を飲み 薬で酔を抑えて 更に深酒する ようなことがあっては ならない。

登山の基本原則にたち戻って 姿勢を正すべきで、あくまで 登山者の基本姿勢として 登山者は自然にたいして つねに 謙虚な気持ちをもち 登山技術を磨き、装備をととのえ、体調を完全にして、天候を適確に判断し ナビゲーションの読図力・地形判断力を高めしながら 道迷いのないように慎重な行動に徹し、実力に見合った 背伸びのない 余裕を持った 安全登山を行うよう 常に心がけたいものだ。

登山者位置SOSシステム完成の暁には 万が一に備えて 端末を携帯するのこと自体は 大変 ありがたいことだが 安易にSOSが出せるからといって、 登山者は 「安全登山の基本原則」を ゆめゆめ忘れないようにしたいものだ。

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当日の講演資料など 四国総合通信局のサイトに公開されています。

四国総合通信局は、2015年2月27日に高松市(e-とぴあ・かがわ
BBスクエア)において、「山の防災システムセミナー」を開催。

http://www.soumu.go.jp/soutsu/shikoku/koho/teleporter/20150227.html

【講演資料】 岡田(おかだ)教授
登山者等の位置検知システムの開発に関する調査検討状況について
≪登山者の見守り及び遭難者の救助支援≫(PDF 3.7MB)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000346054.pdf



岡田教授講演資料

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